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画面録画ツール「Loom」のまとめ

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Keisuke Iizuka
Co-Founder & CEO
January 23, 2022に公開
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僕はたまに、今後の事業の模範となりそうなスタートアップのストーリーを読んでは、事業の将来を考えたり、純粋に元気をもらったりしています。普段は、Notion上にまとめたものをメンバーにだけ公開しているのですが、これからはブログにて公開することにしました。

今回選んだのは、画面録画ツールを提供するユニコーン企業「Loom」です。「Video Messaging for Work」をキャッチコピーとし、2021年10月の時点では1,400万人のユーザーを抱えています(参考までに、Notionは同時期に2,000万人のユーザーを抱えています)。

Loom CEOの経歴

LoomのCEO、Joe Thomasはインディアナ大学の出身です。大学では経済学を専攻していましたが、当時はリーマンショックと時期が被っていたこともあり、魅力的なインターン先を見つけられませんでした。そこで、ウェブデザインやロゴデザインを専門とする広告制作会社を在学時に立ち上げます。何の経験もなしに起業するには相当な自信が必要だと思いますが、Joeの家族が起業家一家(印刷会社・ゴルフコースの運営など)であることが大きく関係していると思われます。

I want to be a large owner of my own destiny - Joe Thomas, Co-Founder and CEO at Loom - "Creating Moments”

大学卒業後も自身の会社で働き続けますが、自身の興味やスキルアップを目的に、卒業から約3年の間に2回転職します。この時に、プロダクトマネージャー(PdM)としての経験を積みました。そして自身が十分に成長したと感じたタイミングで、次の起業のための共同創業者探しを始めます。Joeはこの時「何をやるか」よりも「誰とやるか」を最重視しており、特に

  1. 働くリズム (Work Ethic)
  2. 価値観 (Values)

の2つが一致する方を探していたそうです。そして9ヶ月後の2015年に、友人のエンジニアとデザイナーと共に、3人のチームで始動しました。

Loomの前身「Opentest」

約8ヶ月で開発した最初のプロダクトは「Opentest」という、アプリを投稿するとデザイナーやマーケターなどの専門家からフィードバックを貰えるというサービスでした。サービス自体は悪くなかったものの、多くの企業は自社で専門家を抱えていたため、数万円も払って外部の専門家からフィードバックを貰う仕組みはヒットしませんでした。

しかしその中でも唯一、画面録画を通したフィードバック機能はユーザーから高く評価されていました。シンプルな画面録画ツールが求められていることを知ったメンバーは、画面録画に特化したプロダクトへとピボットすることを決意します。そして、2016年7月に今のLoomの原型となる「Openvid」をProductHuntにて公開しました。

The simplest solution is usually the right one - Joe Thomas, Co-Founder and CEO at Loom - "Creating Moments”

ProductHuntの公開日には2,500人が登録し、100日後に「Openvid 2.0」を再度ProductHuntに公開した時点ではユーザー数は12,800人にも上っていました。

PLG達成までの道のり

Loomが早期に直面したのが、「画面録画を撮って誰かに送る」という新しい習慣をどのようにユーザーに定着させるかという問題です。この問題を解決するためにチームが行ったのが、

  1. 理想のカスタマージャーニーを明確にすること
  2. 各ジャーニーのKPIを最大化すること

の二つです。ちなみにこの考え方は、Jim Collinsの「Good To Great」という有名な本に書かれているFlywheelという成功の循環サイクルのモデルを参考にしています。

下の図は、ある時期にLoomが実際に理想としていたカスタマージャーニーになります。オレンジ色のボックスが各ジャーニーとそのKPI、白色のボックスが割くリソースの割合を示しています。

「How a Focus on Speed & Simplicity Can Fuel Your Flywheel with Loom's CEO Joe Thomas」より

「How a Focus on Speed & Simplicity Can Fuel Your Flywheel with Loom's CEO Joe Thomas」より

この時期は録画機能の強化(一番右のボックス)に70%のリソースを割いており、当時3人居たエンジニアの内、2人のエンジニアが4ヶ月もの時間をかけて取り組んでいたそうです。Loomは、録画してからビデオがアップロードされるまでの時間が短いことで有名ですが、この機能はCTOのHiremathによって同時期に作られました(特許も取得しています)。

個人的に学んだこと

バーティカルに展開しないこと

We did not want to verticalize for any one persona, we wanted to build a video messaging for everybody at work - Joe Thomas, Co-Founder and CEO at Loom - "Creating Moments”

Loomは、Notion・Evernote・Slackなどの成功したフリーミアム系のサービスと同じように、多くの人に刺さるような汎用的なプロダクトを最初から目指してきました。Joe自身も、この意思決定を早期に行ったことはLoomの成功要因の一つと語っています。

汎用的なプロダクトを作るというのは、ユーザー全員の最大公約数を取ったプロダクトを作るという意味ではなく、コアユーザー・コアユースケースを常に明確にした上で、どのような機能を作らないのかを言語化するという意味でしょう。

プロダクト作りにおける忍耐力の重要性

Providing a best-in-class product is hard in any case, and much harder over the course of a decade because it takes so much discipline. - Seven Questions with Joe Thomas

SalesやPaid Marketingに依存せず、プロダクトの力だけでユーザーに新しい習慣を定着させるには時間がかかります。そしてそれを何千万人のユーザーに定着させることにも途方のない時間がかかります

長期的なプロダクトの価値を犠牲に、短期的な開発スピードを追求しないことは重要です。プロダクトチームがスケールして良い時期なのかを常に問い、採用のタイミングを適切に見極める必要があります。Loomに関しても、上に挙げた理想のカスタマージャーニーを達成するまでは、3人のエンジニアだけで開発していました。

コアな機能だけに絞れば、小さなプロダクトチームでも達成できることはたくさんあります。同様に、小さなプロダクトチームにしか達成できないこともたくさんあります。もしLoomが初期に何十人ものエンジニアを抱えていたら、理想のカスタマージャーニーを追求することへの理解を全員から得られず、バイラル性の弱いサービスに終わっていた可能性もあったでしょう。

参考文献