日程調整ツール「Calendly」のまとめ
前回の勉強記事では、画面録画ツール「Loom」を取り上げました。今回選んだのは、Loomと同じくProduct-Led Growth (PLG) を実現している日程調整ツール「Calendly」です。2021年1月時点では$70M (約70億円) のARRを達成し、1,000万人のユーザーを抱えています。
CEOの壮絶な経歴
幼少期の悲劇
CalendlyのCEO、Tope Awotona (トープ・アオタナ) はナイジェリアのラゴス出身です。母親は薬剤師、父親が微生物学者という比較的裕福な家庭に育ちました。しかし、12才の時に悲劇が訪れます。ある日、父親が家の前の道路に車を止めた際に、複数人の強盗に襲われてしまいます。父親は車の鍵を強盗に渡したものの、問答無用で銃で撃たれてしまいました。Topeはこの出来事の一部始終を目の前で見ており、大きなトラウマとなって、今でも不眠症に悩まされているそうです。
アメリカへ移住
ナイジェリアでは大学の教育が遅れていたため、Topeが16才の時に、母親の勧めでアメリカのアトランタに移住します (ちなみにナイジェリアの公用語は英語です)。多くの面でTopeを支えてきた母親ですが、その母親もTopeがCalendlyを創業した年に亡くなっています。
起業家になるまで
アメリカ南部の慣れない英語のアクセントに悩みながらも、無事にジョージア大学に入学し、経営情報システムを専攻します。元々セールスに興味があったTopeは、大学在学中にコールセンターのオペレーターや警報装置の訪問販売などの仕事を経験しました。
そして大学卒業後もIBM・Dell EMCなどの企業でセールスとしてのキャリアを歩み続けます。特にPerceptive Softwareという成長中のスタートアップで働いた経験は、Tope自身が起業家として独立する自信を与えてくれたそうです。
3度の起業失敗
TopeはCalendlyを創業するまでに合計3回起業し、いずれも失敗に終わっています。
- マッチングサイト (Single To Taken)
- プロジェクターのECサイト (ProjectorSpot)
- グリルのECサイト (YardSteals)
一回目のマッチングサイトに関しては自身の開発スキルが足りなかったことから、ローンチにも至りませんでした。二回目と三回目のECサイトに関しては、利益率が低かったことや自身の興味がない分野であったことから撤退を決断しました。3度の失敗で自信を喪失したTopeは、しばらくの間は起業から身を引くことにします。
4度目の挑戦「Calendly」
日程調整に全てを賭ける
TopeがDell EMCでセールスをしていた頃、商談の日程調整のためのメールのやり取りが非常に面倒であることに気が付きます。20から30の日程調整ツールを一通り試しますが、誰もが簡単に使えるようなツールは存在しませんでした。
The more I researched the opportunity the more I became obsessed with the problem - Episode 81: Scheduling as a Service: Calendly’s CEO Tope Awotona on Revolutionizing the Meeting Lifecycle
3度の失敗で自信を喪失していたTopeは、何とかしてこの新しいアイデアを諦める理由を探しました。しかし調べれば調べるほど、同じような課題感を持つ人が数多く存在することがわかりました。そして6ヶ月のリサーチ期間を経て、これまでの失敗したアイデアとは何かが違うことを確信したTopeは、起業資金として200,000ドル (約2,000万円) を準備し、3度目の失敗から数年後の2013年に「Calendly」を創業しました。起業資金を準備するためにも、クレジットカードを限度額まで使い切り、高金利の個人ローンなども借りたそうです。
ウクライナの開発組織
セールス出身の彼一人で起業したため、エンジニアを探す必要がありました。しかし、興味を持ってくれるようなエンジニアはTopeの周りにはいません。そこで「Railsware」というウクライナの企業に開発をアウトソースすることに決めます。アウトソースするに至って国内外の多くの企業を検討しましたが、最終的にはCalendlyのアイデアに最も興味を持ってくれた企業を選びました。ちなみに、今でもCalendlyの開発の多くがウクライナで行われているそうです。
そして契約から半年間の開発期間を経て、MVP (Minimum Viable Product) をリリースしました。
Calendlyの成功要因
Tope自身が考えるCalendlyの成功要因は4つあります。
- フリーミアムモデル
- 日程調整の工数の削減
- 優れたUI/UX
- 顧客管理システムとの連携
これらの全ては、他の日程調整ツールには欠けていたが、実際にユーザーが必要としていた要素になります。フリーミアムモデルを選択したのには、戦略的な理由はなく、当時決済システムを導入するだけの金銭的余裕がなかったからだそうです。
もう一つのCalendlyの凄さが、その高いバイラル性です。2019年1月まで一度も広告を打っていない上、アウトバウンドのセールスも行っていません (現在は不明)。数千人のユーザーに広がるまでには数ヶ月かかりましたが、それからはユーザー数が急速に伸び続けています。今では約1,000万人のユーザーがCalendlyを利用しています。
個人的に学んだこと
誰よりもその課題について詳しいことはもちろん、なぜ既存のツールではその課題が解決できていないのかを徹底的に分析する必要性を学びました。もしProduct Market Fit (PMF)を達成しているツールが市場に存在せず、課題と解決策の間に明らかなギャップが存在するのであれば、そこに大きなチャンスが潜んでいる可能性は高いでしょう。
参考文献
- 21: Calendly Founder Tope Awotona | Going All In
- 213: Calendly's Founder: Building A $30M SaaS After 3 Failed Startups - With Tope Awotona
- Demystifying the Unicorn Buzz with the CEOs of Calendly, Algolia, and Contentful
- Episode 81: Scheduling as a Service: Calendly’s CEO Tope Awotona on Revolutionizing the Meeting Lifecycle
- Full Case Study: Calendly’s Journey to a $3B Valuation
- How Atlanta’s Calendly turned a scheduling nightmare into a $3B startup
- How Calendly is building a platform by turning scheduling into a center-stage event
- How Calendly Serves 5,000,000 People on a Monthly Basis
- Meet the unicorn founder that braved war zones and missed meetings to make his mark on the startup world
- Tope Awotona – A Founder Story