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      創業ストーリー
      2023年9月26日

      シード期のエンジニアCEOが事業を失敗して得た教訓

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      飯塚 啓介
      共同創業者 & CEO

      シード期のスタートアップは大抵が失敗します。Y Combinatorを卒業したスタートアップでさえ、シリーズAの資金調達ができるのは全体の45%に過ぎません。そして、シード期のスタートアップが失敗する理由は様々です。共同創業者と別れた、従業員を雇い過ぎて資金が尽きた、プロダクトが作れなかったなど、色々あると思います。

      その中でも今回は、シード期のエンジニアCEOとしての私自身の失敗談を共有したいと思います。日本においてエンジニアが起業するケースはまだまだ少ないですが、数少ない事例の1つとして参考になれば嬉しいです。

      リリースから1ヶ月でクローズ

      今回の失敗談の主役となるツールは、Ekakiという会議の文字起こしツールです。ざっくりとした使い方は、デスクトップアプリがウェブ会議の音声の録音と文字起こしを行い、ユーザーは会議後にツール上でそれらを確認できます。

      文字起こしツール「Ekaki」

      文字起こしツール「Ekaki」

      1年以上の歳月をかけて開発し、2022年1月にβ版をリリースしました。Skyland Venturesの木下さんにPRを後押しいただいたこともあり、1ヶ月で80社ほどの事前登録がありました。この数字を見ると「悪くはないのでは?」と思う方もいるかもしれませんが、95%以上の事前登録は想定ターゲットからではなく、純粋にEkakiのUI/UXを見たいという方からでした。

      しかし想定ターゲットからの事前登録数が少ないことは、もう一つの巨大な問題と比べれば些細な問題に過ぎませんでした。その巨大な問題とは、Ekakiが絶望的な問題を解決できていなかったということです。そしてリリースから1ヶ月もしない内に、Ekakiをクローズすることを決断しました。

      絶望的な問題を解決していない

      絶望的な問題を解決できていないことに気づいたのは、ALL STAR SAAS FUNDの佐伯さんとのミーティングがきっかけでした。私のEkakiについてのピッチが終わり、佐伯さんから「どのような絶望的な問題をこのツールは解決しているのか?」と質問された時、初めて「答えられない、やばい…」と、自らに絶望しました。そしてその後に、人生で初めてのユーザーインタビューを行い、最終的にピボットしなければならないという確信へと変わりました。

      どのような絶望的な問題をこのツールは解決しているのか?

      ユーザーインタビュー中に「絶望的な問題を解決していないな」と感じる瞬間は多々ありましたが、その中でも特に次の2つはこのことを示している重要な証拠だと思います。

      • 既存の解決策よりも10倍優れていない. 文字起こしのコストが高い上、フォーマット通りの議事録を作成するのは難しいです(当時はWhisperもChatGPTもまだ存在していません)。ツールの費用と自動作成された議事録を修正する作業が発生すると考えると、録音を聞き返して人力で議事録を書くという既存の方法よりもEkakiの方が非常に優れているということはありませんでした。
      • 熱狂的なファンがいない. 議事録業務を日常的に行う潜在的なユーザーにEkakiを紹介した時に、Ekakiが存在しない世界では議事録業務が出来ないというくらい、熱狂的なファンは現れませんでした。新しいツールがユーザーに強く求められないのは、一点目が理由として大きいと思います。

      絶望的な問題を解決していないという失敗自体は、CEOが誰であろうが陥る可能性のある失敗の一つだと思います。しかし、1年以上の開発期間の中で、失敗を事前に防げる機会は十分にあったのに出来なかったのは、過度なエンジニアドリブンな文化が原因でした。

      プロダクトマネジメントの崩壊

      プロダクトの企画当初は、MVP(Minimum Viable Product)の定義を文書化していました。しかし実際に開発が始まると、徐々に開発の規律が失われ、ユーザーではなくエンジニアの自己満足のために開発するように変化していきました。今振り返ると、色々散々なことをしていたなと思います。

      ユーザー中心ではなく、思い付きで新機能を追加する

      ProductHuntで見た競合ツールの機能をその場で実装したり、技術に惹かれて興味本位でデスクトップアプリケーションを作成してみたり、個人的に好きなツールと連携したりもしていました。

      どの機能も技術的にはそこまで難しくなく、頑張れば一人で開発できてしまうという点が、開発の意思決定をチェックする基準を下げていたのだと思います。もちろん、規律が崩壊した中で追加された機能は、本来のMVPでは予定されていない機能なので、プロダクトの本質的な価値とも関係はありません。

      ツールの本質ではない、デザインに必要以上に時間を割く

      Figmaでピクセル単位の修正を繰り返したり、大規模なデザインの改修を何回もしたり、独自のデザインシステムを作るノリで各コンポーネントのUIを調整したりもしていました。

      当時は「NotionがUI/UXを極めて成功しているから、自分達もUI/UXを極めるべき」という考えでしたが、そのデザインの修正は本当にユーザーに価値があるのかは、深く考えるべきでした。特にEkakiの場合は、デザインを極めるよりも、文字起こしの価格と精度を極めた方が、ツールとしてのUXは圧倒的に良くなったはずです。

      ピボットするには共同創業者が必要

      開発する中で「これは誰のために作ってるんだっけ」という議論は度々起こりました。しかし、開発の手を止めるスイッチングコストは大きいので、深い議論を避けて開発を続けていました。

      プロダクトマネジメントが崩壊した原因は、私自身の未熟さも大きいですが、共同創業者がいなかった点も大きいです。共同創業者がいないということは、CEOの次にモチベーションに溢れる人が社内にいないということです。

      Y Combinatorの2022年夏のバッチに参加した企業の創業者の数

      Y Combinatorの2022年夏のバッチに参加した企業の創業者の数

      特にシード期の場合、どれだけ初期の事業アイデアを固めたところで、競争環境の変化や新技術の登場などによって、ピボットを迫られる瞬間があります。創業者が一人の場合は、従業員がゼロの状態からやり直す必要があるかもしれませんし、その選択肢を考えるだけで頭が痛くなるくらい気が遠くなります。そういう時に共同創業者が居てくれたら、やり直しにかかる時間も短くなると思いますし、自分達なら出来るという自信も与えてくれます。もちろん、共同創業者と上手くやれていて、株式も十分に分配されていることが前提ではありますが。

      決して悪いことだけではない

      Ekakiの失敗を経て、得たものも多くあります。開発という打席に多く立てたことで、私自身の技術やエンジニアリングの理解が深まったこと。技術ドリブンではなくユーザードリブンに開発を進めること。Ekakiの開発力を評価してくれた、Skyland Venturesの木下さんから投資いただいたこと。そして、次のプロジェクトを共にする共同創業者に出会えたことです。

      今は何をしているのか

      現在は「UXの新たなスタンダードを創る」というミッションの元、Flipというプロダクトの分析をAIを用いて自動化するツールを開発しています。AIに質問するだけで、5秒で分析からデータの可視化までしてくれます。基本的な集計からファネル分析やリテンション分析のような高度な分析まで、幅広いプロダクト分析を自動化します。無料から試せるので、ぜひこの機会に試してみてください!

      プロダクト分析ツール「Flip」

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      また、現在は2名のメンバーしかいないため、常に人手が足りていない状況です。全職種で採用していますので、ぜひ力を貸していただける方をお待ちしています!こちらのページから、カジュアルにお話しましょう!

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